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Posted by 安奈 - 2014.03.29,Sat
0330修正
ドアの下方から、ガン!と音がしたので、ナッパはベジータの来訪を知る。
1秒と空けず開いたドアから迷いもなく入室し、手近な棚の上に一枚の紙と重石よろしく酒瓶を置いた。
紙はともかく、酒に関してはお前にやる、という事だろう。
用が済んだベジータは部屋の主に視線すら寄越さず部屋を去った。
ナッパからすれば慣れた事である。
まず、例え粗暴極まりない足蹴であろうとも、同族内でノックの概念があるだけ上品である。ベジータしかしない所作でもある。
酒の出処はおそらくターレスである。そしてターレスもこのパターンを読んでベジータを中継したと思われる。
ナッパは酒が好きだが、ベジータは好まない。
だが土産を目上の存在に献上しないわけにはいかない。そんな律儀さをターレスは持っているので、アルコールの類になるとこういった現象が起こる。
結果的に王子を使い走りにさせているのはいいのだろうか。ナッパはそこだけ腑に落ちない。
ベジータは酒が飲めないわけではない。好みの個体差こそあれサイヤ人にとっては無害な飲料だ。
青年期に入って久しいベジータが進んで口にしない理由は、フリーザとの会食の味だからだとナッパは踏んでいる。
惑星消滅より20年以上経っても、フリーザはベジータの身分をサイヤ人の王位継承者として親睦だとか会議だとか適当な名目を使って化物揃いのテーブルへ招喚する。希に二人きりで向かい合う場合もあるようだった。
ベジータはその席の様子をめったに語らないが、返ってきた際の容貌は鉄面皮から序々に青筋が浮かぶ憤怒の表情に変わるのが常であった。お決まりの「くそったれ」という罵倒も。
内心を見透かして遊んでいるのだろう。宇宙で最も恐ろしいフリーザ様は、お気に入りの働き蟻と戯れるが大好きなご様子である。
最も長くフリーザ軍内でベジータと行動を共にしてきたナッパから見て、気まぐれに放置される時期こそあれ、フリーザがベジータに興味を失ったと感じた瞬間は一度としてなかった。
古くは入軍したての頃、見事に取り繕った子供らしいわがままを聞き入れ、原住生物の平均数値の高い惑星を一つピックアップし、おもちゃを渡すように派遣命令を下した。資源もなく原住生物の知性も著しく低い為何の収穫もない、コストだけが掛かる無用な出兵であった。
いや、収穫はあったのだろう。ベジータが行う虐殺の映像記録はいたくお気に召したらしい。ドドリアが大声で怒鳴り散らしていた為古参兵にはそれなりに有名な話だ。
ベジータの希望通り、その後は前線での戦闘が主な任務内容となった。
泥沼に陥った現場へ、最終手段として派遣される事も多い。
酒瓶の下の紙の内容も簡潔に纏めると、文明を丸ごと蒸発させてこいといったものだ。
水滴で多少湿ったアナログの出撃命令書を見ながら、ナッパは想像する。
地上に降り立ち、ガスも散蒔かれた細菌も、波状エネルギーで吹き飛ばし、余波で建造物が崩れてゆく様子。
幾度となく見た風景。焼け爛れた死体が疎らに倒れている風景。
ベジータにとっちゃもの足りない任務だろうなあと思いながら、瓶のコルクを歯で捻り抜き、酒を喉へ流し込む。
度数は高くないが、濃厚な香りが物珍しい酒であった。

ターレスが酒を寄越す時は決まって何かしらの情報が瓶の底裏に貼り付けてある。
多くは小型の映像記録装置。今回もターレスが好んで使うパス付きのメモリーチップだった。
フリーザ軍内ではあまり流通していない上、パスは別銀河の古語だ。ターレスが指定し、ベジータしか知らない。
発音にコツがあり、使い始めはエラーが出る事もあったが、今は慣れたものである。ちなみに発音は分かっても意味は知らない。
個人のプライベートがそれなりに保たれているこの基地では、自室で見るのは特に問題ないと判断している。
音声パスが認証されると、ターレスの小さな立体映像が浮かび上がった。
『我ら誇り高き戦闘民族サイヤ人が故郷、惑星ベジータ王位継承者、ベジータ陛下』
ターレスは慇懃無礼に言い放ち、仰々しく一礼した。それはベジータの神経を逆撫でする動作だったが、後で腕でも捻り上げれば良いとして報告を聞く事にする。
『以前報告した、神精樹の実に関して新しい情報が入ってきたぜ。次の個人遠征でオレは死亡する予定だ』
寝耳に水、というわけでもなかった。
ターレスはフリーザ軍に帰属する前からずっとこの伝説の果実を追っている。
死亡する予定――出奔するとなると、よほど確実性が高い情報が手に入ったのであろう。
ただ、急な事になった。ターレスはポッドの整備が整い次第次の出撃が決まっている。
死亡工作であるが、そこは本人に任せる以外手段がない。
ガセネタの場合、戻ってくる可能性がある。そのフォローをどうするかと、ベジータは思考を巡らせる。
『ベジータ王子』
間を置いて呼ばれた彼の呼称は、先ほどとは打って変わって不遜さがなりを潜めていた。
立体映像の表情も皮肉げに歪められた普段の表情とは違う、真摯さが伺えた。
言うならば、ラディッツがたまに見せる表情に近い。
『必ず収穫してくるぜ。もちろんオレも食うが、あんたには必ず献上する。なんて言っても、オレ達の擁する王族はあんたかターブルしかいない。だがオレはあんたの方が好きさ。弟サンには会った事ねえけどよ。サイヤ人率いていいのはどう考えたってあんただ。オレは将来また抜けるかもしれないが、あんたが居りゃ、ナッパ達も座りのいい居場所ができるだろう?あんたが何考えてるのかは知らないが、あんたが存在する限りサイヤ人はサイヤ人でいられる。で、フリーザの野郎八つ裂きにして、新しい惑星見つけて、国おっ建てりゃいい』
こいつは何を言っている?真意はなんだ?
『まだ先の話になるが、繁殖できる種族も探さないとな。そこら辺妙に疎いんだよなあ生き残ってる奴らは。危機感薄いぜ。まあいい。先だ先。今はフリーザだ。フロスト一族』
じゃあまたな。と言って映像は終わった。
居場所?国?繁殖?何が目的で?何の為に?
ベジータには、ターレスの弁が理解できない。
サイヤ人は強ければいい。女が居ないのならば、この残された代で宇宙最強を目指す事が生存意義だと考えていた。
ターレスや、ラディッツ達にとっては違うのだろうか。ナッパにとっても違うのだろうか。
いつものように、ベジータはチップを破壊しようと掌にエネルギーを集めたが、霧散させた。
証拠が残るリスクを承知で手元に残す事とする。
消化されない疑問が少なからずベジータの肚に蟠った。
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