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Posted by - 2024.07.02,Tue
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Posted by 安奈 - 2014.03.30,Sun
0330修正

ターレスは生き残ったサイヤ人の中では異色の経歴の持ち主である。
彼はサイヤ人が名実共にフリーザの傭兵だった頃、多くの同族がそうであったように地上げ屋稼業に従事していた。
下級戦士でで取り立てて戦闘能力が高くなかった為、青年期に入ってからもチーム制での行動をした。
目新しい物を好み、雑食と言って差し支えないサイヤ人達が見向きもしないような地産の食料を口にする事を好んだ。当時は悪食と謗られた。
ある日、特別な戦闘も、生死の境を彷徨う事もなく、著しい戦闘力の向上を経験した。
甘ったるい腐ったような臭いの飲料を飲んだ日の事であった。
戦闘数値を絶対視するサイヤ人社会の価値観の中で、ターレスの数値は単独行動を許可される層に潜り込んだ。
次の仕事でターレスは出奔した。
戦う事にしか悦びを見出せない、置かれた状況にも盲な同族にほとほと嫌気がさした結果であった。
彼は自分の頭が良く回り、しかし享楽的な性質である事を自覚していた。
足がつかないように、できる限り故郷から遠い星々を巡り、略奪を謳歌し、美酒と美食と変わらぬ悪食を楽しみ、そして女と遊んだ。
いつからか利害の一致から行動を共にする者も現れ、さながら宇宙海賊のような生活をしていた。
楽しければそれで良かったので、生命の危機を感じれば恥も外聞もなく逃げ出し、戦闘力は出奔時からそれほど変化する事も無かったが、ある噂が彼の心を捉えた。
神精樹の実。
神にだけ口にする事を許された伝説の果実。
惑星を一つ犠牲にし、凝縮されたエネルギーの塊は、一口で膨大な力を与えるという。
強ければ身の危険が減る事は分かりきった事実であるし、その樹木の残酷さも好ましく思った。
ならず者が集まる惑星の酒場で、ターレスはその実を齧る自分の姿を夢想した。
下級戦士という蔑みの対象であった出自。思うように上がらない戦闘力。実質支配を受けるサイヤ人種族。
彼が無視を決め込んでいた、忘れ去ろうとしていた怒りが小さく発火し、野心のようなものが芽生えた。
その後、ターレスの行動は神精樹の実獲得に焦点が絞られる。
しかし銀河の果てを越え、更に別の宇宙に足を踏み入れる事もあったが、一向に見つかる気配はない。
手当たり次第に情報を集めても空振りが続いた。
そしてその日がやってきた。神精樹の実ではなく、故郷について彼は知る事となる。
宇宙船型の情報交換所がフリーザの支配区域から外れて停泊していたので、めぼしい話はないかと物色しに行った時の事である。
腰に巻きつけた尻尾を見て、声を掛けてきた宇宙人がいた。
フリーザ軍から脱退した元戦闘員が、ターレスをサイヤ人と踏んで惑星ベジータの消滅とそのいきさつについて話し出したのだ。
出来る限り故郷から離れる事を意識していたターレスにとって、惑星ベジータの消滅は知る由も無い事であった。
尚且つその原因が、同族全体の雇い主であるフリーザの自ずから行った破壊であった事など。
元戦闘員は明らかにターレスを蔑んでいたが、彼は言葉巧みに、その男が知りうる限りの情報を引き出した。
生き残ったのは数名である。下級戦士2名、中級戦士1名、王族2名、内、第二王子は辺境惑星へ左遷。
フリーザが惑星ベジータを滅ぼしたのは、サイヤ人が徒党を組み、反旗を翻す事を恐れた為である。
そして、フリーザ軍に属するサイヤ人達は当然それを知らない。
ターレスに最も衝撃を与えたのは女が一人として生存確認されていないという事実であった。
好色なターレスには種族を問わない馴染みの女が両手の数以上居たが、妊娠の兆候すら見せた者はいない。
サイヤ人は絶滅する。
同族を捨てたも同然のターレスであったが、その事実が齎す喪失感は彼に大幅な変化を要求した。
神精樹の実を知った時の小さな火種がより大きな炎に飲み込まれるようであった。
その炎は、無知蒙昧だった同族を貶し、未だ盲の生き残り達を罵り、フリーザを破滅させろと慟哭し、サイヤ人を見捨てた彼自身を焼いた。
ターレスは話を聞き終えると元戦闘員の舌を引き抜いて喉を裂き、その場で馴れ合った一派から離脱して、身一つでフリーザの軍門へ下った。
快い歓迎など受けるはずもなかったが、幸い帰属は許された。昔のように過酷で退屈な地上げの日々が待っていた。
遠征の合間を縫うようにしてようやく引き合ったサイヤ人達に、ターレスは彼が知る真実を伝え、同族の価値観が塗り替えられるのを目の当たりにした。
自分の役目がひとつ終わったと、胸の内で密かに笑った。
それは他人も自身をも騙す事に長けたターレスというサイヤ人の、初めて行った同胞への奉仕であった。

そして彼はまた出奔する。
派遣された惑星には誂えたように宇宙航空技術があった。
動作確認した一隻を残して文明を破壊し尽くした後、彼はフリーザ軍から与えられた装備を、さも攻撃を受けたかのように工作して破棄した。もちろん血痕も忘れない。
鼻歌さえ混じえながら、ターレスは揚々と旅に出る。目的地にあるのは彼がずっと求め続けてきたもの。
「灯台下暗しってやつだな」
それはフリーザ支配区域内で見過ごされてきたのだ。
若干の皮肉さも感じながら、神精樹が根付く砂漠の星への進路を戦利品の電子端末に入力した。

ターレスが遠征先で消息を絶った。
地上げで命を落とす者など珍しくもなかったが、サイヤ人を警戒するフリーザ側近達からの指示で派遣された調査兵は、外部から損傷を受けた支給品のスカウターと、大きく破損したフリーザ軍の装甲、そして着地地点から移動した形跡のないボール型宇宙船を発見し、やはり戦死という判断を下した。死体は見つからなかった。
惑星の制圧自体は終わっており、大気等の組成が居住環境に向く事から、さっそくその星は移民希望種族へ向けた競売に掛けられる事となった。
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Posted by 安奈 - 2014.03.29,Sat
0330修正
ドアの下方から、ガン!と音がしたので、ナッパはベジータの来訪を知る。
1秒と空けず開いたドアから迷いもなく入室し、手近な棚の上に一枚の紙と重石よろしく酒瓶を置いた。
紙はともかく、酒に関してはお前にやる、という事だろう。
用が済んだベジータは部屋の主に視線すら寄越さず部屋を去った。
ナッパからすれば慣れた事である。
まず、例え粗暴極まりない足蹴であろうとも、同族内でノックの概念があるだけ上品である。ベジータしかしない所作でもある。
酒の出処はおそらくターレスである。そしてターレスもこのパターンを読んでベジータを中継したと思われる。
ナッパは酒が好きだが、ベジータは好まない。
だが土産を目上の存在に献上しないわけにはいかない。そんな律儀さをターレスは持っているので、アルコールの類になるとこういった現象が起こる。
結果的に王子を使い走りにさせているのはいいのだろうか。ナッパはそこだけ腑に落ちない。
ベジータは酒が飲めないわけではない。好みの個体差こそあれサイヤ人にとっては無害な飲料だ。
青年期に入って久しいベジータが進んで口にしない理由は、フリーザとの会食の味だからだとナッパは踏んでいる。
惑星消滅より20年以上経っても、フリーザはベジータの身分をサイヤ人の王位継承者として親睦だとか会議だとか適当な名目を使って化物揃いのテーブルへ招喚する。希に二人きりで向かい合う場合もあるようだった。
ベジータはその席の様子をめったに語らないが、返ってきた際の容貌は鉄面皮から序々に青筋が浮かぶ憤怒の表情に変わるのが常であった。お決まりの「くそったれ」という罵倒も。
内心を見透かして遊んでいるのだろう。宇宙で最も恐ろしいフリーザ様は、お気に入りの働き蟻と戯れるが大好きなご様子である。
最も長くフリーザ軍内でベジータと行動を共にしてきたナッパから見て、気まぐれに放置される時期こそあれ、フリーザがベジータに興味を失ったと感じた瞬間は一度としてなかった。
古くは入軍したての頃、見事に取り繕った子供らしいわがままを聞き入れ、原住生物の平均数値の高い惑星を一つピックアップし、おもちゃを渡すように派遣命令を下した。資源もなく原住生物の知性も著しく低い為何の収穫もない、コストだけが掛かる無用な出兵であった。
いや、収穫はあったのだろう。ベジータが行う虐殺の映像記録はいたくお気に召したらしい。ドドリアが大声で怒鳴り散らしていた為古参兵にはそれなりに有名な話だ。
ベジータの希望通り、その後は前線での戦闘が主な任務内容となった。
泥沼に陥った現場へ、最終手段として派遣される事も多い。
酒瓶の下の紙の内容も簡潔に纏めると、文明を丸ごと蒸発させてこいといったものだ。
水滴で多少湿ったアナログの出撃命令書を見ながら、ナッパは想像する。
地上に降り立ち、ガスも散蒔かれた細菌も、波状エネルギーで吹き飛ばし、余波で建造物が崩れてゆく様子。
幾度となく見た風景。焼け爛れた死体が疎らに倒れている風景。
ベジータにとっちゃもの足りない任務だろうなあと思いながら、瓶のコルクを歯で捻り抜き、酒を喉へ流し込む。
度数は高くないが、濃厚な香りが物珍しい酒であった。

ターレスが酒を寄越す時は決まって何かしらの情報が瓶の底裏に貼り付けてある。
多くは小型の映像記録装置。今回もターレスが好んで使うパス付きのメモリーチップだった。
フリーザ軍内ではあまり流通していない上、パスは別銀河の古語だ。ターレスが指定し、ベジータしか知らない。
発音にコツがあり、使い始めはエラーが出る事もあったが、今は慣れたものである。ちなみに発音は分かっても意味は知らない。
個人のプライベートがそれなりに保たれているこの基地では、自室で見るのは特に問題ないと判断している。
音声パスが認証されると、ターレスの小さな立体映像が浮かび上がった。
『我ら誇り高き戦闘民族サイヤ人が故郷、惑星ベジータ王位継承者、ベジータ陛下』
ターレスは慇懃無礼に言い放ち、仰々しく一礼した。それはベジータの神経を逆撫でする動作だったが、後で腕でも捻り上げれば良いとして報告を聞く事にする。
『以前報告した、神精樹の実に関して新しい情報が入ってきたぜ。次の個人遠征でオレは死亡する予定だ』
寝耳に水、というわけでもなかった。
ターレスはフリーザ軍に帰属する前からずっとこの伝説の果実を追っている。
死亡する予定――出奔するとなると、よほど確実性が高い情報が手に入ったのであろう。
ただ、急な事になった。ターレスはポッドの整備が整い次第次の出撃が決まっている。
死亡工作であるが、そこは本人に任せる以外手段がない。
ガセネタの場合、戻ってくる可能性がある。そのフォローをどうするかと、ベジータは思考を巡らせる。
『ベジータ王子』
間を置いて呼ばれた彼の呼称は、先ほどとは打って変わって不遜さがなりを潜めていた。
立体映像の表情も皮肉げに歪められた普段の表情とは違う、真摯さが伺えた。
言うならば、ラディッツがたまに見せる表情に近い。
『必ず収穫してくるぜ。もちろんオレも食うが、あんたには必ず献上する。なんて言っても、オレ達の擁する王族はあんたかターブルしかいない。だがオレはあんたの方が好きさ。弟サンには会った事ねえけどよ。サイヤ人率いていいのはどう考えたってあんただ。オレは将来また抜けるかもしれないが、あんたが居りゃ、ナッパ達も座りのいい居場所ができるだろう?あんたが何考えてるのかは知らないが、あんたが存在する限りサイヤ人はサイヤ人でいられる。で、フリーザの野郎八つ裂きにして、新しい惑星見つけて、国おっ建てりゃいい』
こいつは何を言っている?真意はなんだ?
『まだ先の話になるが、繁殖できる種族も探さないとな。そこら辺妙に疎いんだよなあ生き残ってる奴らは。危機感薄いぜ。まあいい。先だ先。今はフリーザだ。フロスト一族』
じゃあまたな。と言って映像は終わった。
居場所?国?繁殖?何が目的で?何の為に?
ベジータには、ターレスの弁が理解できない。
サイヤ人は強ければいい。女が居ないのならば、この残された代で宇宙最強を目指す事が生存意義だと考えていた。
ターレスや、ラディッツ達にとっては違うのだろうか。ナッパにとっても違うのだろうか。
いつものように、ベジータはチップを破壊しようと掌にエネルギーを集めたが、霧散させた。
証拠が残るリスクを承知で手元に残す事とする。
消化されない疑問が少なからずベジータの肚に蟠った。
Posted by 安奈 - 2014.03.27,Thu
0330修正

「へえ、じゃあまだ1000にも届いてないのか。顔が似てても分からんもんだね」
ターレスである。
彼は同族の中でも単独行動を好み、命令通りふらっと出撃しては戦果を上げ、お土産よろしく地上げした惑星の特産物を戦利品と称して持って帰ってくる癖があった。
今回はアルコール類に属する飲料である。
原生の果実を発酵させたよくある原始的な飲み物は、カカロットには香りや甘味より、苦味が勝って口に合わない。
大きなガラス瓶に溜められたそれを半分近く手酌で空けたターレスだが、酔いには程遠いらしい。一方のカカロットは1杯目を少しずつ甞めていた。
向かいのソファにだらしなく座っているターレスを見ていて、おや、と思った。
「ターレスは今どん位になったんだ?」
彼は、ふふん、と得意げにスカウターを投げつけ、さあどうぞを言わんばかりに両腕を広げた。
表示された数値は3000弱。以前会った時より100近く上昇している。
「わっかんねえな~!コツとかあんの?」
「さあね。潜在能力の違いだろ」
ラディッツもあまり伸びないしな。お前ら親父じゃなくて母親に似たんじゃないか?
そうかもしれない。カカロットは直に父親に会った事はないが、外見は別としてどうも性格は真逆と言っていいようだ。
寡黙で、冷静で、戦況を即座に分析し、チームの柱として戦場で信頼された父。口と素行は悪かったらしいが。
オレと似てるのは顔だけだろうな~というのが、伝聞でしか実父を知らないカカロットの感想である。
「ところでよ」
出生をぼんやりと考えていたところで、ターレスが話題を変えてきた。
「神精樹の実って聞いた事あるか?」
ない。
「だよな。オレは噂で聞いたんだが、それを食えば信じられないような力が手に入るらしいぜ」
「ただのウワサだろ~?そんな上手い話あったらフリーザが黙ってるわけねえじゃんか」
「そりゃそうだ」
そうは言いながら、ターレスはその噂を信じているようだった。遠征先で根拠になる情報でも掴んだんだろうか。
それとも、戦闘力3000とはいえフリーザ軍内ではやはり下っ端であるところの、儚い夢に縋ろうとしているのか。

前触れもなくドアが開いた。王子宛にターレスの土産を頼んだはずのラディッツだ。
若干青褪めた様子で、手には3枚の紙。おそらく出撃命令書だろう。
よほど酷い星へ派遣されるのだろうか、カカロットは兄の様子を見て、自分が行く星に何者が居るのか想像する。
自分よりも強い相手、どんなに力いっぱい殴ってもびくともしない相手。
そんな存在は比喩でもなく星の数ほど居ると分かっているのに、背筋にぞくぞくとした悦びが這い上がってくる。
カカロットは自分が弱い事を知っている。死がこの場に居る誰より身近な事も理解している。
それでも、さあ戦っていいと言われると、その現実は押し流されてしまう。
それが忌々しく思うフリーザの命令だったとしてもだ。
「ラディッツ、オレ帰ってきたばっかなんだけどさぁ」
うんざりと言い放つターレスに、まあそんな悪い所じゃないからと書類を渡す。
やはり出撃命令だ。
「カカロットはくれぐれも注意しろ。今回は」
自分の派遣先の内容にざっと目を通すと、確かに下手を打ったらまずいと感じる箇所がいくつか上がった。
瞬間移動?そんな能力を持つ種族が居るのか?科学技術だったとしたら、都市を破壊するのは避けなければ。そう考えながら下記項目を見れば同内容の但し書きがされていた。
「王子サマとナッパサンは?」
「二人で地獄行きだ」
ターレスの問にラディッツが手短に答えた場所は、情報映像で見た激戦区。小惑星帯が熱を持ち赤く発光する様は地獄と言われる場所に似ているのかもしれない。地上戦はやれ細菌兵器だガス散布だと、カカロットにはあまり馴染みのない単語が飛び交っていた。
「どうやって戦うんか想像もできねえ」
「エネルギー波で表面一掃が目的だろうな。ベジータご指名って事ぁ」
「え、あそこ文明占拠が目的じゃなかったのか?」
「地下資源が潤沢だからってしつこく言ってただろ!お前ら兄弟はほんっとどうしようもねえな!」
「今まで全然関係無かった区域なのによく覚えてるなあ、お前」
「情報、大事だろ…」
もう話したくないとばかりに命令書で顔を覆ったターレスからラディッツに視線を向ければ、つい先ほどの固い表情は消えていた。
どうやら、ベジータとナッパの任務内容に安心したらしい。
彼の兄はベジータを特別視している節がある。
ターレスの言う「王子サマ」は明らかな揶揄が含まれているが、ラディッツの言う「王子」は至極真面目な響きである。
カカロットにとってベジータはベジータなので、ラディッツが口にする「王子」は身分の呼称にしか聞こえないのだが、そう呼ぶラディッツが、時々別人のように凛として見える。
理由はさっぱり思いつかない。
聞いてみれば何か分かるのだろうが、ラディッツの思うところがどこにあろうとも、カカロットにとってのベジータはやはりベジータなのだろうと彼は思った。


Posted by 安奈 - 2014.03.27,Thu
0330修正

出撃命令書に目を通して、ベジータは舌打ちした。
また、個々人での惑星制圧である。
ある時期からサイヤ人同士での部隊編成が避けられるようになり、死んでこい、もしくは強くなるなと言わんばかりの両極端な指令が増えていた。
先日のカカロットの件にしてもそうだ。
人口がそれなりに多く、高数値の個体の確認も取られていた場合、チームリーダーを一人指名し数名の隊員を付けるのが定石である。
サイヤ人の能力を信頼して、などと聞き心地のよい建前のもと、カカロットは非効率この上ない惑星制圧に駆り出されたのであった。
そんな現場ばかりたらい回しにされた結果、弱虫以下のカカロットは必要以上に戦略的な回避が上手くなってしまった。
高数値の個体に対して一撃を与え、逃げ、また攻撃し、逃げ…
オーバーワークになるのも然り。おそらく本人にとっても不本意な戦闘スタイルだろう。
サイヤ人の体質を考えれば、出来る限り避けたい戦法でもある。
またベジータが内心危惧しているのは、回復能力に長けた種族に当たった場合、自殺行為になりかねない事だ。
カカロットは体力的にも秀でているわけではない。持久戦が限界を超えれば結果は明白である。
考えれば考えるほど使えない最下級戦士。
それでも処分されないどころか、ベジータがカカロットを買う理由。
好戦的である事は当然として、戦闘数値に反映されない技術と吸収能率の良さだ。
『おまえ、つええんだなあ』
初対面で、開口一番そう言ったカカロットの言葉を思い出す。
スカウターを付けないまま、周囲の大人には目もくれずまっすぐ自分を見据え、目を輝かせた子供にベジータは内心驚愕した。
機械に頼らず個体の強弱を測れるらしい。それはベジータにとって未知の能力だった。
その後、スカウターほどの精度が無い事が分かり少々の落胆はあったが、地球とかいう惑星で自ずと身に付けてきた技術は今でも役に立っている。
それは圧倒的な戦力差があるフリーザ攻略できっと役に立つ。
力押し一辺倒になりがちなサイヤ人の中では、貴重な存在だと判断していた。
しかしやはり、満身創痍から回復しても、微々たる成長しか示さない下級戦士に苛立って仕方のない事もまた事実であった。

「ベジータ、そろそろオレの命令書見せて下さいよ」
ああ、もう処分してしまいたい方の弱虫が邪魔しやがった。
共有スペースで考え事をしていた自分も悪いが、ラディッツのどうしようもない間の悪さに苛立ちの矛先が一瞬で変わる。
「あとこれ、ターレスが王…ベジータにって」
琥珀色の液体が揺らぐガラス瓶を掲げて「王子」と言いそうになったラディッツは肝を冷やしているのだろう、少し頬を引きつらせて、テーブルの端にそっとそれを置いた。
「王子」という呼称は、惑星ベジータが消滅した後しばらくして止めさせた。
国家を失った王族に身分はなく、フリーザ軍の中ではただのベジータである。
ナッパはすぐに従った。カカロットは最初から馴れ馴れしかった。ターレスはそもそも不遜だった。
だが、よわむしラディッツ。サイヤ人下級戦士層をそのまま絵に描いたようなこの男だけは、いつまで経っても癖が抜けない。
理由を問い質した事があった。返ってきた答えは、民がいれば王子は王子でしょう、だと。
ベジータにとって血統は矜持の拠り所以外何物でもなかったので、その返答は理解の外にあった。
結果、ラディッツは不興を買い、背骨を折られてメディカルマシンに入る事となった。
それはベジータの額を前髪が隠していた頃の出来事で、今は少しだけ分かるようになった気がしている。確信には至らないが。
だから、こうしてうっかり口にしようと、ベジータが居らぬ場所で何と呼ぼうと、重症を負わす状況にはならなくなった。
無言のラディッツに対し、無言で出撃命令書を渡す。
内容を確認したラディッツは、溜息混ざりにまたか、と呟いた。
「ベジータ、オレ達いつになったら親父たちみたいな戦い方できるんでしょうね」
昔を懐かしむような言い方をするな、鬱陶しい。
とは言葉にせず、フリーザ様直々に賜ったお言葉を言ってやる。
「サイヤ人は優秀な戦闘民族でいらっしゃるから、効率よく戦果が上がって助かりますよ。だとよ」
「当面無理って事ですね…ああでも、ベジータとナッパはツーマンセルか」
「フリーザ様の中じゃ、オレはまだ惑星ベジータから預かった大事な王子様らしくてな」
ラディッツの表情が固まる。皮肉くらい笑って流しやがれ。大体いつもの事じゃねえか。
視線は派遣先の場所で止まっていた。高度文明を築いた種族連合とここ数ヶ月競り合っている激戦区が記されている。
ラディッツが参戦するとすれば容易に無残な結果が予想できる戦場だった。
ナッパは元々ベジータの従者としてフリーザ軍に入った。名門に恥じない戦闘力が認められ、ベジータの補佐役として現在もペアが続いている。
ベジータが感じる一番古い惑星ベジータの名残である。最前線での戦闘経験が長いからこそ、ベジータとナッパはフリーザ側としても使い勝手が良いらしい。
これ程度の状況ならば死なんだろう。残念ながら数値を上げるチャンスは無さそうだが。
ベジータは自分とナッパの分を抜き、残り2枚をラディッツに突き出す。
「あいつらに渡しとけ」
ラディッツが見た同じ書式の命令書は、カカロットも帰還したばかりのターレスも、一人で遠足へ行けと宣っていた。









Posted by 安奈 - 2014.03.26,Wed
ドラゴッンッボーオルー
昔書いてた妄想走り書きの微修正と飽きるまで適当に書きます。
カカロット・プログラム通り帰還IF

アラームが鳴っている。緩やかに覚醒しながら手元のタッチパネルに触れた。小さな電子音と共に管制塔との通信が始まる。ノイズが酷いのはこのポッドが破棄寸前のオンボロだからだ。
管制官は手短に軌道を告げ、一方的に通信は途切れた。合理的だ。つまりは収容されているものに意識があるかを確認するためのやり取りにすぎない。応答が無い場合、彼のような下っ端兵はそのまま「ゴミ箱」へ誘導される。
長方形の窓から白い惑星が見えた。それは地表を隈なく覆う城壁の色だ。
近づくにつれ丸みを帯びた建造物のシルエットと米粒のような人影が見えた。申し訳程度に生えた樹木は貧相な枝を伸ばしている。見慣れた眼下の風景を苦々しく思う。ここはオレの星じゃない。
帰還信号を受けて着地予定地点がぱっくりと黒い穴を開けた。
あとは自動制御だ。次にくる筈の衝撃にカカロットは身構えた。

「ひでえ目に遭った」
ひび割れた装甲を兄に投げつける。ラディッツは慣れた様子でそれを受け止め振り向きもせずクロークを開けた。戦闘力は自分より上なのに甲斐甲斐しく世話を焼くのはいつもラディッツの役目だった。カカロットに限ってではない。同胞全てに対してのその様子に苛立っているものがいる事に彼は気付かない。
「あんな数値の高い奴いるなんて聞いてねえぞ。あんたはともかくなんでターレスとかが行かなかったんだよ」
「たかが知れてるだろう。あの程度の星、制圧できないでどうする」
バタンと乱暴に扉を閉め、真新しい戦闘服を突き出した。
「いいか、お前はサイヤ人なんだぞ。いい加減その自覚を持て」
「持ってるさ。オレだってもっと強くなりてえよ」
なのにちっとも強くなんねえ。口を尖らせながらやはりボロボロのアンダーウェアを脱ぎ捨てる。まとめてダストシュート行きだなとラディッツが呟いた。埃っぽさと生臭さに顔を顰めている。あの星の住人の血は酷い臭いだった。
バスルームに入ると兄の叱責が追ってきた。ちなみに今回は五日のオーバーワークだ。それには耳を塞いでコックを捻る。ざっと流れた水に掻き消されて後の言葉は聞こえなかった。

カカロットはサイヤ人の中で一番弱い。顔を合わせるのが五人しかいないため優劣は簡単に評価できた。
惑星べジータは巨大隕石との衝突で消滅し、故郷を離れていた彼らだけが生き残った。今は名目上の同盟相手であったフリーザ軍へ帰属している。名目上、というのは実質支配を受けていたためだ。拠り所をなくし、当時も手足となって働いていた事実からごく自然な流れで現在に至る。
カカロットは所謂星送りの子供で、地球という小さな星を制圧し、5年後惑星べジータの爆発跡地付近でフリーザ軍の宇宙船に発見され、収容された。身柄を引き受けた兄のラディッツは開口一番「何て弱さだ」と項垂れた。
当時の事はことある毎に引き合いに出される。おまえ、あの時俺がどんな気持ちで王子のとこに行ったかわかるか!こいつぜったい殺される、下手したら俺まで殺されると思ったんだぞ!
生き残りに王族がいた。幼少の頃からの高い戦闘力を買われ、フリーザの手元に預けられたべジータ。
彼は強さだけの尺度を持っていた。弱いものには目もくれない。よって、カカロットはあしらわれた。
戦士の身体をした少年は片目にあてがわれたスカウターの数値に舌打ちし、言葉も掛けずに踵を返した。
ラディッツは長い安堵の溜息をこぼし、隣にいたナッパが笑った。坊主、命拾いしたな。
その後、ターレスが合流し、サイヤ人はフリーザ軍の最前線で働き続けていた―――表面的には。

「いつになったらまともな戦闘力になるんだ、えぇ?」
べジータの手の中でスカウターが軋んだ。
帰還したカカロットの戦闘数値を測るのは半ば恒例となっている。見事なほど、伸びない。
「なぜだ!」
死に掛けるのも珍しくないのに!言われてカカロットは後頭部を掻いた。
決して訓練を怠っているわけではない、むしろ戦いに関しては人一倍勤勉だと言っていい。
それでもようやく兄の戦闘力に近づいた程度だった。
「オレもなんでこんなよわっちいままのか分かんねえんだよな」
「考えろ、異常だ。サイヤ人としておかしいと言ってるんだ」
今にも掴みかかりそうな勢いでべジータが吼え、バチンと彼の背後で空気が爆ぜた。
衝撃で歪んだ金属製のパイプを一瞥してからナッパがカカロットに何とも言えない視線を投げる。
「ターブルん所に、護衛として行くのも悪くねえかもなあ」
呟いた一言にべジータの眉尻が跳ね上がった。

その後、ナッパは容赦ないベジータの気弾を受けメディカルマシン送りとなった。
回復すればまた戦闘力は少なからず上がっているだろう。理不尽な暴力を彼らは意に介さない。それよりも、まったく得な体質だと各人は思っている。
信じられないような事実として、ベジータはカカロットの事を買っている。
戦場を離れれば少々陽気すぎるきらいはあるが、その「戦闘」においてのサイヤ人らしさは両手以下の数となった同族の中でも際立っていた。
いつか爆発的な能力向上の機会があるのではないかという期待があった。
ベジータ程ではなくても、ナッパに次ぐ位にはと。
下級戦士でも戦闘力1万に肉薄する戦士は居た。カカロットとラディッツの父もまたその一人であった。
あのバーダックの息子ならば、或いは…その可能性はどんなに低いものであってもこの状況下で捨てるのは論外である。
個々の戦闘力が上がれば、それだけチームとしての戦略の幅が広がる。
そして、より過酷な戦場を渡り歩き、経験とサイヤ人固有の伸びしろを積み重ね、そして。
そして、フリーザを討つ。
これが、ベジータを筆頭とした生き残ったサイヤ人達の、無言で共有される宿願であった。




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